青山真治監督の映画には、「誰かのために生きる」つまり「守る」ということが描かれる。
この映画では、血縁はほとんど関係がない。そこにあるのは、同じ経験を共有し、同じ傷を負った者同士の関係である。
バスジャックの人質であり、そこで無差別殺人を目の当たりにし、自分たちも殺されるぎりぎりの経験をした3人。バスの運転手・沢井と中学生の兄妹・なおきとこずえ。彼らの時間は、そこで止まってしまった。
「生きる」ことを望んでいるのに、生きることができない3人が、もう一度時間を動かすために、共同生活を始め、そして、ポンコツバスを買って旅に出る。
そんな単純な物語に心を揺さぶられるのは、ひとつにはほとんどせりふのない映画だからだろう。言葉によらないコミュニケーションは、言葉によるコミュニケーションよりもより豊かで複雑である。
沢井が、夜、部屋のカーテンを開けて、ライトを点けたり消したりを繰り返す。闇に向かって、沢井の心が必死に語りかける。
バスの中で、夜眠れない3人が、壁をトントンとゆっくり2回ずつ、たたき合う。それぞれの心が、それぞれの心へ向かって語りかける。
私たちは、きっと誰かを「守る」ために生まれてきたのだと思う。守るということは、生きることの最も積極的な理由だ。だからこそ、この映画には人の心を揺さぶる力があるのだろう。