ティム・オブライエン作。村上春樹訳。
私も含めて、戦争を知らない世代が日本の人口の大多数を占めるこの時代に、戦争を知る人々は、何を語りたいだろうか。
この本は、ベトナム戦争で歩兵として従軍したアメリカ人が書いたものである。それがどの戦争にも当てはまるものかは分からない。ベトナム戦争の特殊性はあるかもしれない。彼が米兵であった、という特殊性もあるかもしれない。だが、きっと、普遍的に、本当の戦争の話である部分があるに違いない。
だから、戦争を知る世代がこの本を読んだとき、これが彼らの語りたいことであるかどうかを尋ねてみたい。
「本当の戦争の話というのは全然教訓的ではない」
「多くの場合、本当の戦争の話というものは信じてもらえっこない」
「それははらわたの直感にずしりと来るものなのだ」
地獄、狂気などという一般的な言葉を寄せ付けないものが戦争であるという。
戦争とは本来的に言葉になる以前のものだろう。
戦争を知らない世代は、戦争という観念を、どのように自分の中に築いているのだろうか。それは、死の観念を持つことと同様に重要なことのように思う。
そこからしか、未来は開けないのではないか。