水俣病の8歳の女の子がいまわのきわに桜の花を見て、唇を動かす。
なあ かかしゃん
かかしゃん
しゃくらのはなの 咲いとるよう
いつくしさよ なあ
なあ しゃくらのはなの
いつくしさよう しゃくらの
なあ かかしゃん
しゃくらはなの
母親は、娘の眸に見入った。
「あれまだ、この世が見えとったばいなあ」
と思い、自分もふっとどこからか戻った気がした。 (いまわの花)
まさに自分に死が近づいている中で、花が咲いていることを母親に一心に知らせようとする娘。まるでこの世には母子2人しかいないような取り残された場所に、一瞬の光がきらめく。
私は生きる力をもらう。