ナイアガラ・オン・ザ・レイクは、ナイアガラの滝をカナダ側へ渡って、車で30分ほどナイアガラ川沿いを下り、オンタリオ湖に流れ込む場所にある、おとぎの国のような、かわいい町だ。
日本で言えば、軽井沢や清滝のような町だ。いわゆる観光地である。
バッファローから1時間弱で行けることもあって、遠くから友人が訪ねてくれたりすると、よく出かけた。
だが、私はこのような町がどうも苦手のようだ。テーマパークと同じで、リアリティに欠けているからである。何度も訪ねたにも関わらず、その町の記憶はほとんど残っていない。
オンタリオ湖岸へおりると、ふと海の香りを感じた。不思議だった。オンタリオ湖は淡水湖である。おそらく、私がそれまで海の香り、潮の香りだと信じていた匂いは、藻の匂いなのだ、ということに思い当たった。
その匂いだけが、ナイアガラ・オン・ザ・レイクの記憶である。