gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 キッズ・リターン

昨年の忘年会でスタッフ007の「自転車に乗るときの、飛んでいく風景が好き」というセリフを聞いて、北野武の「キッズ・リターン」が頭に浮かんだ。自転車のシーンがとても印象的な映画だ。

自転車に二人乗りをする主人公たちも、007のように飛んでいく風景を見ていたのだろう。目の前の何かへ向かって走っているわけではなかった。

マーちゃんはやくざの道を、シンジはボクシングの道を進む。シンジはその才能に恵まれながら、勝ち続けることに貪欲にはなれない。惨めに負ける人生を選択し、ボクシングの道を手放す。併行して、マーちゃんもやくざの道から投げ出される。ほっとした表情で二人は再会する。どんな栄光よりも、シンジは、マーちゃんと自転車に乗っていたいのだ。

校庭で自転車を乗り回す姿は、私に懐かしい小学校の校庭を思い出させる。たけしの引いたアングルは、おそらくすべての人に校庭の懐かしさを呼び起こさせる。彼らはここへ帰ってきた。

人生で何人かシンジのような人間にあったことがある。才能に恵まれながら、どんな野心も持たない人。ただ、出会った人間に対して誠実に生きて、その結果がどうであれ、決して人のせいにしない人。

そのような人間は、自転車に乗るときに、目の前よりも、飛んでいく風景を見る。