朝食のゆで卵の殻をうまく剥くことができなかった。
そんなとき、ふと思い出すことがある。チュニジアで砂漠と緑地の境界線に住む一家を訪ねたときに、食べさせてもらったゆで卵だ。
卵の殻を剥く手際の悪い私を見て、少年たちは笑った。そして、彼らは3分割くらいに、つるっと一瞬で剥いて見せた。ゆで卵は、毎日のおやつなのだろう。
彼らは私に巻貝の殻をくれた。サハラ砂漠でひろった貝殻。砂漠も遠い昔は海だったのだ。
海を見たことがない彼らが、それを耳に当てて、「聴こえるよ」と言った。私も耳に当ててみた。かすかな風の音が聴こえた。