家族で行った飲食店にアームバンドの片割れを残してきたことに、数百メートル歩いてから気づいた。
もう地下鉄駅に降りようとしていたところで家族に言うと、妻は「もういいんじゃない。安物だったし、新しいの買おうよ。」と。
「確かに。」と思ったところで、陽向が「取ってきてよ。かわいそうだよ。」と言う。
みんなで「そうだね。かわいそうだね。」と。
片割れのままでいないでよければ、それに越したことはない。
ぼくは踵を返し、飲食店へ走って戻った。
陽向が、モノに心がある、と感じるように育ってくれたことをとてもうれしく思う。