ピアノを弾く、という憧れはあった。
「おかしな二人」だったかな?
指をつめたヤクザが昔弾いていたピアノを弾く映画を観たことがある。
つめた指のところだけ、音が抜ける。彼の人生が詰まった、不完全な、悲しい音楽になる。
人が不完全なものに惹かれるのは、だれもが不完全だということを知っているからだ。
だが、完全なものに憧れるからこそ、くすり指がない、という不完全さが際立って見えてくるのだ。
そう、憧れることと、惹かれることは違う。
前者は、ベクトルを与えてくれる。後者は、愛おしむ心を与えてくれる。
完全なものに憧れる気持ち。そこへ近づこうとする気持ち。そのために、ピアノを弾く。
そして、そこには到達できない、と知ること。
一人一人の人生の中で、この悲しいループを繰り返しながら、人は進化していく生き物なんだろう。