2011年。河瀬直美監督。
藤原京の発掘現場の映像に、海の音が重なる。海の波は、月を想起させ、月は女性を象徴する。
万葉の昔から、二人の男は一人の女を取り合ってきた。古都・奈良を舞台に、それが今も日常であることを示す物語が描かれる。
「何もしないで、待ってるだけじゃないの!」という叫びとともに、女は男の家から飛び出していく。
だが、待っているだけの人生を選び取ったのが、この村に暮らす人々ではなかったのか。
もう一人の男は、能動的に生きる提案を女にした途端、「好きな人がいるの」と女に告白されてしまうのだ。
朱華(はねず)色という万葉の時代の色を探す女が冒頭の染色作業で手で揉む器の紅い液体は、血を予感させる。
一転して、染められた薄いスカーフは、涼やかでやさしく、また艶めかしくもある。
最後に、誰かが紅い血を流すことになるけれど、それはとても静かで、一方では、まるで当たり前のように、いにしえから遠い未来へと命が継がれていく。
「名もなき無数の魂に捧ぐ」というエンドロールが心を揺さぶる。
きっと、うたはこのような現実から生み出されるのだ。詠み人知らず、のうたのように。