小学4年から6年まで、通学路には養豚場の横を通る部分があった。
毎日、できるだけ息を止めて足早にそこを通り過ぎた。
聞こえてくるギューギューという鳴き声からは、とても醜い生き物しか想像できなかった。
そんなに近くにいながらも、ぼくは豚を直視することは一度もなかった。
横で蠢めいている影の存在を、なかったかのように無視しつづけた。
あれから40年もたって、あるプロジェクトで、豚の絵を描くことになった。
「かわいい豚はいやです」と、クライアントが言った。
ぼくは生まれて初めて、豚のリアルな姿に向き合うことになった。
ぼくは、あの頃のそんな記憶を、かけがえのないものとして大切に思い起こす。
醜いもの、汚いもの、臭いもの、そんなものたちがなぜか愛おしくよみがえる。
もうなくなってしまったかもしれないが、またあそこを訪ねてみたい、という気持ちになった。