葛西水族園の中心を占める大水槽で、百数十のマグロ、スマやカツオが泳ぐ姿は壮観だった。ぼくはこれを眺めるだけで、どこか遠い世界へ連れて行かれる気がした。
そんな水槽に異変が生じたのは昨年の12月だ。12月から1月にかけて、魚たちは次々に死んでゆき、1月の終わりにはクロマグロ3匹になったそうだ。そして、3月の終わりには、とうとう今泳いでいる1匹だけが取り残された。
群れで生きる習性を持つマグロが、大きな水槽を1匹で泳ぎ回る姿は、立ち上がる何本もの水泡の柱の演出もあって、まるで孤独を演じているかのようで観る者を引きつける。
原因は、ウイルスではないか、と言われているようだが、彼のみは感染を逃れたのだろうか。それとも、最も丈夫な体を持っていたのだろうか。
では、それを幸運と呼んでよいのか?
泳ぎ回る彼の無表情な目を見ながら、ぼくの心は「あたりまえだ」と答える。