熊本空港へ向かうバスで乗り合わせた初老の女性が、ぼくら家族に話しかけてきた。
空港までの20分間、彼女が日本中の島巡りの旅をされたお話を聴かせてくれた。
今ではメジャーになった島が観光地化されていない頃に行ったときの冒険的な旅のお話や、今でも訪れる人が少ない島を旅する醍醐味を、実に愉しそうに語る。
ぼくも、かつての一人旅の話を、どれだけたくさんの人に語ってきたことだろう。
旅する人は、自分の体験を他人と分かち合いたいと思うらしい。
彼女はそれを「私の自慢話」と呼んだが、ぼくらは一緒に旅をしているような気持ちになって、まだ訪れたことのない遠い場所のことを思い描く豊かな時間をいただいた。
そんな豊かな時間をすごした過去を思い巡らせてみたら、隣にすわった見ず知らずの人に声をかけるような出会いこそを、ぼくたちは旅と呼ぶのではないか、という考えに至った。