gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 預言者

2010年。フランス。

刑務所の中の権力者に、殺人を無理強いされた主人公は、殺した男の幽霊と友達になり、会話をするようになる。

幽霊は預言者のように少し先の未来を言い当てる。やがて、主人公もその能力を得て、刑務所の危険に満ちた世界でサバイバルしつつ、のし上がっていく。

と書いたが、さらりと映画を観ていると、主人公のその能力を感じさせない。それこそがこの映画が観る者に深読みを強いる、優れた部分だと思う。

暴力と理不尽に満ちた世界で主人公が生き延びるために強いられる緊張が、彼に予知能力をもたらしたのだ。殺した男でさえも、味方の幽霊として蘇らせて、力に変えてしまうくらい、彼は必死なのである。

途中、鹿が自動車のヘッドライトに照らされて、必死に逃げるシーンがある。

森敦『意味の変容』に書かれている通り、鹿は必死に逃げているはずなのに、反対に光の中から出ようとせず、むしろ、光の中へ大勢の鹿が集まってくる。

鹿は闇へ逃れることができない動物なのだ。

もちろん、その習性は、主人公が生きるために逆に危険の中へ深入りしていくことを暗示している。

それは意志ではない。その人間の動物的習性なのだ。

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