土木工学の修士課程を修了した後、ゼネコンに入社し、留学の機会を与えてもらい、アメリカで建築を一から学んだ。
アメリカへは、土木工学の教科書や、自分が書いた論文を一箱分送った。必要ないことは分かっていたが、忘れてしまうことが怖かったのだ。
案の定、アメリカに渡った箱は、そのまま一度も開けられることなく日本へ帰ることになった。
教科書に書いてある公式は、いつの間にか頭の中からすっかり消えてしまった。
しばらくの間、私はテストの日なのに何も勉強をしていない、という夢を見続けることになった。
そのことに怖れを感じなくなったのは、自分のライフワークが見えてきてからだ。今は、そんな夢を見ることは全くない。
もちろん、全てを忘れたわけではない。ただ、私の中に残ったことが、たまたまテストに出ないようなことばかりだっただけだ。
前を向こう。