gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 ゆれる

「何も信じないで、すべてを疑うのが、俺の知っているおまえだ。」兄は面会に来た弟に言う。

その通り、弟は兄の無実を毛頭信じていない。ただ、兄のために、彼を裁判で無罪にしたいと思っている。

弟は、吊り橋からの女性の落下事件の現場を、遠くから偶然見てしまっていた。彼の目が捉えたものは、兄が女性を突き落としたイメージだ。だが、冒頭の兄の台詞通りに、弟は、すべてを疑って見てしまう性格のために、兄が突き落とした、と思い込んでしまったのだ。しかし、事実はそうではなかった。

この映画は、弟の視点で描かれるため、兄の本心は常に謎である。だから、兄の側に嘘があるに違いない、と予想させる力が働く。そのため、上記の錯誤には驚かされた。

してあげたつもりが、実は、してもらっていたこと。正義心でやったつもりが、その場での自己満足もしくは自己擁護にすぎなかったことに気づくこと。人生は、そんな取り返しのきかない、恥ずかしいことの連続である。

(弟の)すべてを疑う精神が、このような失敗を生むのだろうか。そして、すべてを受け入れる精神を持つ者(兄)は、このような失敗をしないのだろうか。

しかし、都会へ出て、女にもてまくり、カメラマンとして成功している弟も、田舎で、女にもてず、親の小さな家業を継いで、親の面倒を見ながら地味に暮らしている兄も、死んだ魚の目をして生きているという意味では、両者になんら違いはない。

一瞬のラストシーンでようやく両者の目は生き始める。