北野武監督の映画は、カメラを引いて舞台のように撮り、登場人物は水平方向へ移動することが印象的である。
そして、舞台の下手(左側)と上手(右側)を確実に意識して撮っている。おそらく、それは知識ではない。左右が逆転すると、うすら寒い感じがしてしまう。そんな感覚のなせる業だと思う。
北野武監督の「あの夏 いちばん静かな海」について、面白い考察があった。↓
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この方の見解に全部賛成ではない。私は、ずいぶん前にこの映画を観て、ストーリーも忘れかけていたけれど、練習は湘南の海で、大会は千葉に行ったことを明確に憶えていた。それは、東京を中心とすれば、海側を向いて、左から右へ移動するのが湘南へ行く方向であって、画面の右から左へ移動するのが千葉へ行く方向だからである。
もし、逆に描かれていれば、これほどしっくりと記憶されなかったに違いない。
さて、空間のデザインにおいても、左右を逆転するとよい空間にならないことがたくさんある。そのことを論理的に説明するのは困難である。よい風が吹くように、左右の配置をしていくとしか、いいようがない。
誰にも通じやすいのは、縁起がよい、「右肩上がり」である。空間の左右を決定するときに常識によって決定される決め手はこれくらいしかないだろう。これは私の感覚とも合致していて、よかったよかった。
例えば、ADMJの東京ショールームは、入口から入ったときの風景がこうであることが重要だった。(つまり、入口が反対側にあれば、このデザインは成立していない。)
入口、窓、設備の位置などからどうしても左右の配置が好みとはあべこべになってしまうこともある。そんな悪条件でも、よい風を吹かす方法はある。粘り強く机の上で空間と会話をするのみである。