gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

森敦 「意味の変容」6

http://d.hatena.ne.jp/yogosiurubi/20090923/1253714793

帰国後、いよいよ本格的にシステムパーツを開発し、商品化を目指して動き始めた。

とはいっても、約4年ぶりに復帰したゼネコンの周囲の状況は、行く前とは激変していて、いわゆる「ゼネコン不況」の真っ只中であった。

新しい研究に注がれる視線も、4年前より格段に厳しくなっていた。望むところだ、と思った。

分厚い論文をコピーして、会う人、会う人に次々と手渡した。よい反応もあったが、つまるところ何をやろうとしているのか、誰も想像がつかなかった。

自己表現としてのアートをゼネコンでやろうとしている、と思われた方がほとんどだったのではないだろうか。

私は、いろいろな人の意見を伺いながら、なんとかして、現実との擦り合わせを果たし、結果として、必需品と思っていただけるようなレベルのものにたどり着きたいと思っていた。

阪神大震災のときの仮設住宅や、アフガニスタンやアフリカの難民キャンプなど、その存在が生命に関わるような空間。これらが物理的な意味で生命に関わるものであれば、グリッドフレームは精神的な生命に関わるようなものにならないだろうか、と。

しかし、私のコンセプトに未来を感じてくれる人がいなければ、しっくりとくるような現実的なアドバイスや技術的なサポートを受けられるはずもなかった。

大した知識もない31歳の男が、不相応なことを目論んでいたのかもしれない、とは今も思わない。たとえ、周りからはそう映っていたとしても。

とはいえ、協力してくださった方もたくさんいた。とりあえず、前へ進めるためにシステムパーツをつくって、それを見本市で見ていただこう、と思った。金属加工の工場を会社の先輩に紹介していただき、グリッドフレーム第1号のモデルを自費でつくることから始めた。

(つづく)