混沌には「人間」を呼び覚ます力がある。
阪神大震災のがれきの混沌は、たくさんの人の中で眠っていた「人間」を呼び覚ましたことだろう。たとえ、目に見える不幸と隣り合わせの事象であったとしても、「人間」の美しさとはそのようなときに顕在化されるものだと思う。
私は、日常の中に混沌を求めている。ほんの少しでいいかもしれない。混沌があると気持ちが安らぐ。
突き動かされるような思いから人生を進んでいくことを誰もが欲しているだろう。Aにしようか、Bにしようか、と道を選んで進むような人生を本当に望んでいる者などいるわけがない。しかし、世の中はその逆へ向かう。なぜか。
その背景には、恐怖心があるだろう。混沌に対する恐怖が。私自身、恐怖を感じて、「人間」を閉じ込めてしまっていたかもしれない。
自分の中に「人間」を見い出したのはいつだったろう。そのときに寄り添っていた混沌を憶えているだろうか。