鋸山の石切場にインスピレーションを受けてつくった壁が完成した。
仕上げに生きたのは、友人に鋸山で採取してもらったひと握りの土だ。この土を溶かしたニスで、壁面がギュッと締まった。
一気に生命が現れてきた感じだ。
ここ2か月ほど、ずっと頭の中でイメージし続け、試行錯誤の中で有機と無機のペイントを繰り返した。
元々貼ってあったきっと20年以上前の壁紙の浮き出た模様も合わせ、4層の平面が重なり合っていたものをランダムに剝がし、薄い白を塗装屋さんに塗っていただいた。
そこからぼくのペイントや左官を始めて、合計十数層の重なりが複雑な表面を構成している。
最後は、塗るたびに深みを増していく平面を、有機で終えるか、無機で終えるか、の決断を迫られた。
ずっと無機(モダン)の一様な薄い平面で終えることを予想していたが、予想に反して、有機(描画)で終えることになった。
それが冒頭の鋸山の土による描画だ。
鋸山という固有名の力が、壁面だけでなく、空間全体に生命を与えている。