2000年。エドワード・ヤン監督。
多くを考えさせる力のある映画だった。
この映画について、じっくりと文章を書きたいと思い、そのタイミングを待ったが、結局なかなかそんな時間もつくれないで1週間以上が過ぎた。
このままでは記憶が薄れてきそうなので、このあたりで書くことにした。
時間がないので、ひとつのことだけを書く。
「なんの用事だっけ?」
ぼくらはひとつの目的で動いている途中に、なにか別のことに出くわすと、元々の目的をすぐに忘れてしまう。
映画の冒頭、登場人物が次々にこのセリフを言う。
この日常的な些細なもの忘れで、高校生の娘はマンションのベランダにあるゴミを出し忘れてしまう。
年老いた祖母は、そのゴミを出すために、普段は一人では行かない階下へ降りて、事故に遭い意識不明になる。
娘は、ゴミを出し忘れたかどうかも思い出せないで、祖母をこんな状態にしてしまったのは自分ではないか、と眠れない日が続く。
1.忘れる。
2.偶然に、思い出す。
3.もう一度、やりなおそうとする。
4.もう一度はない、と知る。
5.もう、忘れることはない。
このことが、娘とは別の人物に起こる。
たぶん、一生という時間をかけて、このプロセスがそれぞれの人間の中で繰り返される。
5.に達したことが多いほど、豊かな人生と言えるかもしれない。
そのためには、3.と4.という痛い思いをしなければならない。
いいかえれば、痛い思いを重ねるほど、その人の人生は豊かになっていくのだろう。
祖母が逝く直前に、一瞬元気な祖母に会えたのは、娘だけであった。