昼飯を食べに、通りがかりの小さな寿司屋へ入った。
いつも帽子を被っている私は、不覚にもそのままカウンターへ座った。そして、大将の握った寿司を口に入れようとした瞬間、大将が話しかけてきた。
「お客さんは、食べるときも帽子をお脱ぎにならないんですかい?」
「・・・はい。どんなときも脱ぐことはありません。」
「ふつう、食べるときは脱ぐもんです。」
真顔でそう言われて、大将が不機嫌であることに気づく。
「それは、失礼しました。」と帽子を脱いだ。
もう無自覚なくらいにあたりまえになった、ぼくの毎日のスタイルは、周囲の常識とは少し違う場合があることに、久しぶりに気づく。
そのスタイルを変えるつもりはないが、誰かの世界に入っていくときには、せめてその人を不快にさせないように配慮したい。