gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 潜水服は蝶の夢を見る

何のために映画は存在するのか?などと映画監督に訊ねてみても明確な答えは返ってこないだろう。

だが、病気や事故や災害など、外的に不自由な環境を強制されて、その中でどのように生きるか、という問題に直面している人にとって、この映画はきっと光を示してくれるだろう。

存在意義は、結果によって決まる。おそらくそのような意義を前提としてつくっても、結果はその通りにはならない。つくるというあらゆる行為にはそんな不思議がつきまとう。裏切られた部分がその成果だ、と断言してもよい。

フランスという国ほど、そのことを積極的なものとして受け入れる国はないだろう。だから、フランス映画はおもしろい。

脳卒中で全身麻痺になり、動くのは左目だけになった雑誌ELLEの編集長が、瞬きによってアルファベットを選択し、それを辛抱強く読み取る人の助けを借りて、映画と同じタイトルの一冊の本を出版する。20万回の瞬き。気の遠くなるような作業。そしてなにより、それが実話だというから驚きである。

「想像力と記憶でぼくは潜水服から抜け出せる」

この言葉とともに、主人公は一冊の本をものす作業に取り組み始める。それは、未来に向かって立ち、過去という図書館の本を参照しつつ、現在において人生を反復しながら演繹的に言葉を紡ぎだしていく作業であろう。

たぶん、どのような人にとっても、生きるために重要なのはこのような姿勢だろう。

映画の最後で、地球温暖化で崩れ落ちたといわれる氷河の映像が、逆回しになる。崩れ落ちたものが元の姿に還る。この事実の奇跡はこのように表現され、同時に、想像力と記憶によって奇跡が起こせるのだ、というメッセージが送られる。