タンザニアのケニヤ国境近くの小さな町のこと。もう名前も忘れてしまった。
部屋を片付けに来てくれたのは、10歳くらいの少年だった。片付け終わった後に、彼は少し緊張しながら、私に聞いてきた。「これ、もらってもいいですか?」
見ると、蚊取り線香を置いてある皿の上に、マッチの燃えさしが一本。それが欲しいと言うのだ。「もちろん」
うれしそうに少年は部屋を出て行った。
タンザニアにもマッチはあるけれど、木の種類が違ったのだろうか。少年は、マッチの燃えさし一本に、遠い国、日本を投影しているのだ。
遠い、ということが、人に喚起するイメージは無限である。人は夢見るような顔で、少し目を細める。
そのとき、心は飛んでいる。