gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

アーティストを生み出す街:バルセロナ

バルセロナは好きな町の一つだ。1995年の夏、3か月間をそこで過ごしたことがある。

バルセロナの旧市街には、壊れかけた古い建物が、そのぼろぼろの壁をそのまんまで晒していた。バルセロナ出身のアーティスト、タピエスの作品は、まるでその壁をそのまんま美術館に持ち込んだような作品が多い。壊れたものをそのまんまで晒すことは、多くの人々の感性を育てることになり、この町が多くのアーティストを輩出してきた一つの要因なのではないか、と思う。

もちろん、ぼろぼろの壁をそのまんまで晒すということをわざわざ行う国はない。その修繕まで手が回らないから、そうなっていただけなのだろう。ならば、今バルセロナへ行けば、状況は変わってしまっているかもしれない。

もしも、スペインがその頃より経済的に豊かになり、ぼろぼろの壁が町の中から消えていたとしたら、私にとって、バルセロナはもはや好きな町ではなくなってしまうかもしれない。

そう考えると、私が好きで居続けられる町とは、今後建物が壊れたとしても、そのままの状態で放っておいてくれる場所が残されていく町、ということになる。ゆっくりと時間が流れる場所を、町のどこかにとっておいてほしいのだろう。

1995年の夏、道に迷ったことがあった。顔を上げると、街角のショーウィンドウには、アーティストの絵があった。そして、それは、地図でもあった(写真)。解読しようとしたけれども、よくわからなかった。でも、そのときには、もう道に迷っていること自体、どうでもよくなっていた。