gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

GF8 「なったもの」への回帰SOTOCHIKU

当社が「なったもの」を内部空間へ取り込むことを一度断念したのは、2003年頃だ。問題は次の二つであった。

 

1.「なったもの」を内部空間へ取り込むためにつくったシステムパーツが、十分な汎用性を持ちえなかったこと。


2.「なったもの」をスクラップ以外にはほとんど手に入れることができず、スクラップのみでは本来当社がつくりたい詩的な空間をつくることができなかったこと。

 

1.については、システムパーツを使用しなくても、弊社が22年間で培ってきた空間デザイン力と制作力によって「なったもの」を当時よりずっと効果的に空間づくりに取り入れていくことが可能であることが明らかであり、現在の問題にはなりえない。

 

より大きな問題は、2.である。当社が新しい空間づくりに使用したい「なったもの」とは、例えば、市中を歩いているときに通りがかった家の塀が、太陽や風雨に晒されて表情が変化したものである。このようなものには、それぞれに過ごしてきた時間の中での歴史があり、日常の中でこれを目にしてきた人たちの思いがある。放っておけば、いつか解体され、失われてしまうしかない現状をどうにかしたい。これを素材として、新しい空間をつくることができれば、空間に詩的な作用を及ぼすことができる。しかし、素材として取得するためには、家のオーナーとの気の遠くなるような交渉が必要となる。

 

2017年から、「なったもの」を内部空間に取り込むプロジェクトをSOTOCHIKU(外築)と名付けた。(名前は、想定「外」のものを構「築」する、という意味を表している。)そして、「なったもの」を収集するシステムづくりに取り組み始めた。解体業者や造園業者などに働きかけたが、コンセプトには賛同を受けても、労力に見合う利益をシェアする構造を確立できず、時が過ぎていった。

 

2019年、古着を寄付で集めるサイトにヒントを得て、「なったもの」を所有するオーナーが寄付を表明することにより、「なったもの」を収集する方法を思いつく。まずは、寄付の表明を受けた「なったもの」の中から、新しい空間づくりのデザインに活用したいものを当社で選び、クライアントから提案と見積の承諾を得たとき、寄付が成立する。寄付先は、当社がその活動に強く共感する3つのNPO法人からドナーがひとつを選ぶ。寄付金額は見積額からその40%の当社手数料を引いた金額だ。選ばれたNPOは、寄付証明となる領収証をドナーへ発行し、ドナーは確定申告時にそれを所管税務署へ提出し、最大で寄付金額の約50%を寄付金控除として受けられる、という仕組みである。