gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

マッチの燃えさし

ぼくは、アフリカ・タンザニアの北部アルーシャの安宿にいた。

 

キリマンジャロを登り終えて、ケニアに戻ろうとしていたときだったから、きっとタンザニア最後の朝だったろう。

 

宿の部屋に掃除係の少年が入ってきて静かに掃除を始めた。昨夜、蚊取り線香を炊いたから、皿の上に渦巻き状の灰があり、その横にマッチの燃えさしが1本あった。

 

彼が、小さな声でぼくに聞いてきた。ぼくを見上げた目は、ちょっと緊張している様子だった。

 

「これ、もらってもいいですか?」

 

手には燃えさしがあった。大事そうに、手のひらに載せている。

 

そのマッチは日本から持ってきたものだった。

 

遠い日本という国から来たものを手にして、ドキドキしているのがわかる。

 

ぼくは、この瞬間を一生忘れることはない。

 

あのときの少年の目の輝き。

 

今、彼は何をして過ごしているだろうか。

 

人という存在がこんなに愛おしく思えた瞬間が他にあるだろうか。

 

ぼくら日本人から見れば、圧倒的にものがない国、タンザニア

 

子供の頃から働かねばならない国、タンザニア

 

ケニアよりも経済事情が悪く、国境を越えてくると人のサイズが一回り小さくなる国、タンザニア

 

ぼくは、この日本で生きながら、無性にこの国を懐かしく思うことがある。

 

大事なものを、そこで確かに見たからだ。