gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

未来へ開く

「「片方に開く空間」をつくりたいと思ったのは、学生時代の旅の経験に始まっていると思います。」

 

学生の頃に、長い休みの度にひとり旅に出かけて、海外27か国を歩いたそうだ。

 

「トルコのカッパドキアという奇岩に横穴を掘って最近まで人が暮らしていた場所があって、その穴から外の雄大な景色を眺めたのは、まさに片方に開いている空間を意識した最初だったかもしれません。」

 

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「自然の造形によって、背後は「守られている」と感じながら、開いている方向へ果てしなく広がる風景に、その頃の自分の未来を重ねたのを鮮明に憶えています。」

 

日本にいるときは、共同体の中で意思が抑制されて窮屈だと感じていた田中さんは、日本では引っ込み思案の自分が、海外の未開発の国では違う人間になったように感じられた、と言う。

 

 

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「自分が「開かれた」と感じられたんだと思います。アフリカ・ケニアの田舎では、満員の長距離バスで当たり前のようにぼくの膝の上に置かれた黒人の赤ん坊が、真ん丸な目で不思議そうにぼくの顔を見つめながら、ぼくの顔をずっといじくり回していました(笑)。」

 

「病気も多くて、日本よりずっと死が近いところにある国ですけど、人との間の壁がなくて、そうありたい自分でいられる自由な場所でした。」

 

 

 

しかし、日本へ帰るとまた同じ引っ込み思案に戻ってしまうのを繰り返す自分を顧みて、建築を学んでいた田中さんは心的に「開かれた自分でいられるような空間」をつくれないか、と考え始めました。

 

その答えが「片方に開く空間」だと田中さんは言います。

 

空間的に「片方に開く」ことはイメージしやすいけれど、時間的に、あるいは、心的に「片方に開く空間」とはどんな空間だろう?

 

「まず今の日本って全体としてとても保守的になっていて、新しいものをつくり出そうとするエネルギーが弱まっていると感じます。店舗空間なども、オリジナリティにはこだわらず、流行っている店やSNSで気に入った店のマネをしたい、という人の方が増えているようです。」

 

「日本は、心的に、未来へ向かって閉じている状況だとひしひしと感じています。自分をとりかえのきかない存在だと感じることができなくて、ひきこもりが増えているのもその表れです。「片方に開く空間」は、今の日本の風潮へのアンチテーゼになりえます。ぼくらがつくりたい空間は、自分が未来をよくすることができると信じて、自分の考えの真価を社会に問うような姿勢で試行錯誤しながら一生懸命考えてつくる空間です。」

 

「同時に、開かれた自由な空間は、一人の考えによって閉じない空間であることが大事です。なぜなら、自由になりたい人は、ある一人が考えた空間のルールに従いたいとは思わないから。」

 

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具体的に、どのようにしてそんな空間をつくるのでしょう?その仕事の進め方はとてもユニークです。

 

(つづく)