gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

柔道と空間 2

ぼくの柔道の特徴は、「負けない柔道」だった。小学生の頃から、「ネバ納豆」と呼ばれた。ネバネバとまとわりついてくる、ということだろうか。試合できれいに投げられた記憶はほとんどない。きれいな柔道とはとてもいえない。引き分けの確率は高いが、負けは少ないから、無理やり判定をつけない団体戦だと結果として勝率は高い。そんなタイプだった。

 

どう動けば投げられないかを体が知っていたので、あとはどう相手のバランスを崩すかを突き詰めれば、もっと柔道を愉しむことができただろう、と振り返って今でもシミュレーションすることがある。気がつけば、「負けない柔道」を超える試みを今も続けていることになる。

 

相手のバランスを崩すために、前後、左右、上下の方向に相手を動かすとき、高校時代にぼくが明確にイメージできていたのは前後だけだった、と思う。ぼくは捨て身の小内刈りで勝った試合が一番多いが、それは前後に揺さぶることで崩すことができる相手に対してのみだ。力が均衡していれば、左右への揺さぶりは困難だ。そうすると、あとは上下方向だ。

 

一つ下に、道崎くんがいた。彼の柔道の特長はその強靭なバネにあって、上下に相手を動かすことができた。それができるのは、一握りの天才で、美しい投げ技はその人たちのためにある。けれど、その才能がないぼくにも唯一道があることに気づいた。巴投げだ。相手に上下方向の揺さぶりを警戒させることで、風穴を開けられるケースは多いだろう。

 

こんなふうに、柔道から遠ざかって30年以上経った今も、ぼくはきれいな一本を取ることを夢見ている。

 

そんなイメージに辿り着くとき、ぼくは閉じられた場所からパッと開かれた場所へ出たように感じる。そのイメージを実行に移せば、もちろん、考えた通りにはいかない。自分の状態、相手の状態、環境、・・・いろいろな外部要因が作用して、勝てるはずの試合に負けるし、負けるはずの試合に勝つ。実行すれば、未来は常に開いている。

 

(つづく)