スペインでは車を洗わない、と聞いたのはもう30年前のことだ
ホコリ被った車が、車体をガタガタ揺らしながら、狭い石畳を走る
それが、浮かんだ最初のスペインの風景だ
同じころ、
「車は走るためのもので、洗うものではない」
という飲み屋の常連の言葉にうなづいて以来、
ぼくは車を洗っていない
車は走るためのものだからだ
そう、狭い石畳の風景の画角をもっと広げると、
抜けるような空が青く、雲が白い
そして、丘の斜面を上る、
紫外線でくすんだ赤いボディのオンボロ車の横で、
海がどこまでも果てしなく
キラキラ光っている