●ありふれた古い壁の中に、「地域資源」は眠っている
私たちが価値を認める材料は、現在、経済活動の活発な地域ではなかなか見つけることができません。なぜなら、スクラップ&ビルドやリフォームが繰り返される中では、経済的に価値がなくなったとみなされる古い建物などがそのままで残されていることが少ないからです。
逆に、そのような建物が取り残されたようにたくさんある地域は、私たちにとって「素材の宝庫」です。
本物の空間、そして、長く人に愛される空間をつくるのに必要な素材の…。
なにもない、と思われている地域ほど、純度の高い「地域資源」が発掘される可能性が高いでしょう。
●町の潜在的な個性を浮き彫りにする
町に漂う叙情など、言葉によって明確化されない個性的な魅力はどの町にもあります。しかし、明確化されないがゆえに、この類の魅力は時の流れの中で急速に失われてゆくことがあります。
住民にとっては、懐かしい学校、通いなれた集会所、家族で通った食堂、…それらの温かい記憶を次の世代へ繋いでいくための空間をつくっていけるでしょう。
また、地域の木材、砂、石などを使用した建材や、その土地に古くから伝わる職人の技術など、顕在化した「地域資源」と合わせて空間をつくっていくことで、より地域の個性が受け継がれていくのではないでしょうか。
また、外から訪れる人が求めているのは、本物の文化に触れることだと思います。地域の質の高い文化に触れて、忘れられることのない強い印象を残すことで、訪れる人を増やしていけるのではないでしょうか。
単に、古いものに囲まれた懐古的な空間をつくろうというのでは決してありません。新しい空間づくりに、「構築する要素」と「朽ち滅びていく要素」という逆向きのベクトルを共存させることで、重層的な時間を感じさせる動的空間を実現し、幅広い層に対し、その地域の歴史や文化に想いを馳せていただくことを目的とするものです。