gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

京都・吉田山「白樺」の赤い扉を初めて開けたとき

京都で学生だった頃、夏の旅行先で知り合った京都人に教えてもらったバー「白樺」。

描いてもらった地図は何ヶ月も放置されていた。このまま行くことはないかもな、と時折その地図を横目で眺めては思った。

しかし、少し寒い季節になって、身の回りに哀しい出来事が起こり、急に人恋しい気持ちになって、とうとう白樺を訪ねる日がやってきた。

吉田山の中腹、住宅が並ぶ中に、ひっそりとその赤い扉はあった。

一人でひっそりとした佇まいのバーを訪ねるなど、初めてのことだった。

グリッドフレームは、「誰もが入りたくなるような空間」を売り文句にしているが、この赤くて重いドアほど、入るのをためらわせるドアはないだろう、というくらいに、それを開けるには勇気を必要とした。私はきっと5分くらいドアの前で白い息を吐きつつ、開けようか、帰ろうか、ともじもじしていただろう。(周りに誰もいなくてよかった。)

そして、この重いドアを開けてから、私の世界が変わった。「白樺」の常連たちは、人間的・知的な魅力に溢れていて、私の世界を大きく広げてくれた。「白樺」なくして、今の自分はいない。

そう考えると、あの赤い扉は、私の人生のひとつの「境界」だった。たまには、思いっきり、入りにくい空間もつくってみようか。